「HEAVEN SENT CHILDREN Another Story」
 「-PANIC HEAVEN AND HAPNING HELL-」



　　　２



「ね、いつになったらあたしたちを自由にしてくれるの」
──福澤徹三『お化け屋敷』



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時間はそれよりかなり遡って、午後二時。


ユーロパとマリベールは図書館でのささやかな勉強会を終えて、駅前の繁華街に来ていた。
ふたりとも片手にクレープを持ち、笑顔で会話しながら歩いている。


会話内容は世界の爬虫類や神秘的な生物などなのでここでは省略させていただくが、
とにかくふたりは楽しんでいた。


そして、ユーロパはすっかり油断していた。以前マリベールと自分を襲ったパンプキン団は一応壊滅（？）したという思い込みだ。
それは間違えてはいないだろうが、しかしユーロパだけが接触していない人物がいることに、まだ彼女は気づいていなかった。
　

ユーロパの笑顔は、マリベールの瞳に写る。
それは彼女に内蔵されている高精度ICチップにより最適化され、特殊な周波数の電波に乗せられてとある場所のアンテナに飛び込む。
パソコンのウィンドウに写るユーロパの笑顔を見て、カサイキョウコは妖艶かつ邪悪な微笑みを見せた。


「あの時は失敗したけれど、オダギリ先生がいなければ色んなやり方を試せるわけよ」


紅茶を一口。温かさが喉を通り、全身を駆け巡って脳を活性化させる。


そしてもう一枚のウィンドウに写っている少女を見た。
キョウコのいる場所の隣の部屋なのだが、そこは刑務所の個室と大差ない感じであった。


年齢には似つかわしくない黒の下着。後ろ手に縛り上げているのはもちろん、
胸縄と足首・膝も忘れずに、縄がしっかりと戒めている。


マリベール＝シュトラハウスがそこにいた。
叫ばれてもどうせ影響はないからいいのだが、念の為に鼻元まで覆う猿轡を噛ませてある。数分前に気絶から覚めたらしく、
身体を僅かに動かしたりしていたのだが、逃げられないことを悟ってからはおとなしくなっているようだ。







調査では、彼女は以前にもパンプキン団と名乗るすてきな人生ドロップアウト集団にユーロパともど
も誘拐・監禁されていたという（データがかなり改竄・隠蔽されていたがおそらくオダギリ先生がやったのだろう）。
なるほど、それもあってか彼女の行動は適確であった。
下手に動いて縄が締まるのを避けている。


「こうも上手くいってるのはあなたのお陰なんだけれどね」


キョウコは振り返り、自分の後ろにいる女に声をかけた。
サングラスでスーツ姿の女は、口元に微笑みを浮かべて「全ては博士の腕の良さです」と返す。


「当然それもそうだけど。
あなたがシュトラハウス嬢にうまく同行してもらったのは一番大きな収穫だわ。ウチのアンカじゃこうはいかないもの」


「ありがとうございます」
「本当、キリエさんに知り合えてよかったわ。アングラでは有名な何でも屋なんですってね」
「お調べに？」
「どうかしら」


「・・・ふふ、私もカサイ博士に知り合えてとても嬉しいんですよ」


キリエは立ち上がり、キョウコに近づいた。
そして、とても自然な動作でキョウコの首筋に手の甲を当て、小さな麻酔針を注した。
彼女は微笑みを浮かべたまま、椅子ごと床に倒れた。
彼女はすっかりキリエを信用しきっていた。


だから、自分がマリベールと同じ格好になるなんて思ってもいなかった。