家の前のテーブルにはお茶が置いてあった。


ウカレウサギと帽子屋はいつものように、でもって今日は、いつもグースカ寝こけているネムリネズミも
目を血走らせながらお茶をすすっていた。


「ネムリネズミが眠れないなんて、これはまた厄介で迷惑きわまりないね」
帽子屋が小指を立ててカップを傾ける。


「仕方ないよ。寝てる場合じゃあ全然ないんだもの。全然がないんだもの。全然がだよ。」
ウカレウサギは浮かれていた。


ムフームフーと、ネムリネズミは鼻息が荒い。


大きなテーブルの片っぽに三人（匹？）が寄って座って、そろって何を見てるのかと言えば。





「ん…むぅ…ふぅんん…」
椅子に縛りつけられて女の子だった。


「ん…っ、むーっ、ふぅんーっ」
金髪碧眼、青いドレスに白いエプロン、頭には青いリボン。おみ足は黒いニーソックスで覆われている。
あと縛られている。


これがまたどんな風かというと、手首は背中に回されてギッチリと、腕は胸の上と下を通る縄で身体に固定されちゃって。
ドレスの裾から覗く黒い足が、何故タイツじゃなくニーソックスだと分かったかと言えば、真っ白なパンティをあらわになるように
足を上げ開けて縄で固定されているからだった。
ネムリネズミが凝視してるのはその白い一点だ。


「ん…っ、ふぅっ！んむむ…っ」


一生懸命縄を解こうともがいている。
可愛そうに、女の子はさるぐつわまで噛まされてしまっていて、助けも呼べなければ文句も言えない。
縄と同じように、もごもごと唇を動かして轡をはずそうともしてる。
ウカレウサギが、女の子の小さな唇の動きに合わせてチュパチュパとお茶を吸う。気持ち悪い。


「んむぅ…、ふぅ…、くんん…、ふぅ…」


気にいらなそうにしてるのは帽子屋だけだった。


「迷惑極まりないのは仕方ないとしてもだよ、これは明らかにおかしいとボクなんかは思うのさ」
「緊縛された女の子を視姦…いや失敬、眺めながらお茶をいただける至福の何がおかしいのさ。おかがしいのさ。」
「まったくきみは、ウカレウサギではなくウカレポンチに改名すべきだよ。ウサギを名乗るなんておこがましい。きみは今からポンチだ」
「ウサギだろうがポンチだろうがボクの本質はかわならいさ。かわがならいさ。…ならいさ？」
「まあまあ、まずは帽子屋の意見を聞こうではありませんか。」


女の子のパンツから目を放さずに、ネムリネズミがやけに低い声で提案した。


「きみ、きみだよ。きみを呼んでいる。きみに話しかけているんだ、分かるよね」
「ふむぅ？」


やおら、おっ立てた小指を女の子に向けて声を大きくする帽子屋。


「んー、だの、むー、だのと如何にもさるぐつわされております、って具合に喋ってるけれど、
　きみのソレはただ布を噛ませて巻いただけで、詰め物もしていない、
　ウソ轡とまでは言わないが良いとこ舌を噛めないようする処置止まりのものだよ。
　本当は呻き声がもっと言葉になるはずなのだ。」


「はひはに…ひょっとぁひゃえれあふへお…」


「帽子屋よ、何を言いたいのかと思ったらくだらない。オチの見え透いた長編ギャグ漫画のようにくだらない。」
女の子のパンツから目を放さずに、ネムリネズミがやけに低い声で意見した。


「要するにきみはリアリティを求めているのだね？DID嗜好者にはよくあることだが、二次元さるぐつわ愛好家からあえて言わせてもらうならば
　その『リアリティの無さこそがいい』のであってだね…のがあってだね…」
「待て待て、確かにぼくはシチュエーションにリアリティを求めるタイプではあるが、ジャンルとして二次元の着衣緊縛と猿轡は別物として
　考えている。そうではないのだ。」
「ほう、では何が？」
「そういう『さるぐつわを噛まされている状態の喋り方』という台詞の画一化が、さるぐつわ越しの呻き声から多様性を奪うことを危惧しているのだ」


（…なんか難しい話を始めたわ、このケモノ達…）
こんな恥ずかしい格好で縛り上げて晒しものにしておいて、さるぐつわがどうとかこうとか、女の子にしてみれば知ったこっちゃありません。


「んっ、んんっ、んっ！」


なにやら熱弁を振るっている帽子屋を無視して、女の子はまた縄を解くことの努力を始めた。


「んむっ、ふっ、んむむっ、むんんっ」
「ふぅっ、んっく、ふン、んっ、んんんっ」


努力の甲斐あったのか、もごもごと動かす口元から、噛まされた布が緩んできた。


「！」
（もうちょっとで…！）


よく考えてみれば、さるぐつわが外れただけでは事態は全く好転しないのだが、それでも女の子は少し見えた光明を糧に、懸命にもがいた。
唇を縦に横に動かし、首を振る、舌で轡を押し出す。
そしてついに下唇から布が外れた。


「ぷはっ！はぁ、はぁ…あがっ！！？」
「はむぅう、ぷ、うぐぅうっ！！」


「そら、ボールギャグなら噛ませ轡とはまた違った感じになるだろう？」
「あむぅ！ぅぐぐっ、ふううーっ！」





言われて、口に球状の物を押し込まれたのだと理解する。
やっとのことで縛めを一つ解いたというのに、また元の木阿弥。
いや、今度咥えさせられた球状の轡は、しっかりと口内に入り込んでしまっていて、ちょっとやそっとのことでは外せそうにない。


「あぅう…」


口を閉めることも叶わず、よだれが流れるにまかせて、女の子は哀願するように帽子屋を見やった。


「うっ、うぅ…はくぅ、ふうう」


許しを請う女の子の視線など一顧だにせず、帽子屋は、さっきまで噛ませていた布を広げると、
女の子の鼻と口を覆うようにそれを巻きつけて頭の後ろで結わえてしまった。


「ぐ…、ぅうう…、ふぅっ、うくっ、むぅうっ」





「うん、これでいい」
さっきまでとは打って変わって上機嫌な帽子屋が、おっ立てた小指を差し差し、カップを傾ける。


「ふむー、ボールギャグから溢れた唾液が、被せ轡に染みて、また布がそれを含みきれなくなって垂れる…！完璧だ！完なる壁だ！」
ウカレウサギは相変わらずウカレポンチで


女の子のパンツから目を放さずに、ネムリネズミは目を開いたまま寝ていた。



「ふっ、ふぅっ、んむんんんん、んふっ、むううーっ！」




こうしてお茶と緊縛の会はつつがなく進んでいった。


会の終わり？　



そんなものあるのかな。